basilsの日記

イノベーションについて考察するブログ。その他、アルバイト日誌、感想文、雑感など。

高校の友人と、ものを作ることにした ~アイデアの頑健さ、AK47、i.school~

高校の友人と、モノを作って売ってみることにした。前回(http://basils.hatenablog.com/entry/2014/01/26/215028)は参考になりそうな本の2冊目として、クリス・アンダーソンの『メイカーズ』を取り上げた。日本とアメリカでは状況も違い、Kickstarterなど海外のサービスを利用するには英語の壁もあるとは思うが、とても刺激的な本だった。
 
今回は3冊目の本として、東京大学i.school編の『東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた』について。今までに考えつきもしなかったような問題を見つけたり、斬新な解決方法を探したりするときにとてつもなく参考になる本だ。筆者自身、i.schoolに出入りしていたことがある。
 
i.schoolというのは東大でイノベーション教育のために作られた組織で、週1回くらいのワークショップがメインの活動だ。様々な分野の大学院生が集まり、「働く母親と子どものよりよいコミュニケーションに向けて」「社会的企業をつくる」「エコ・エクスペリエンスのデザイン」といったテーマについてアイデアを生み出していく。
 
もとはと言えば、東大工学部の堀井教授と、博報堂イノベーション・ラボの田村氏が立ち上げた組織だ。両者がそれぞれ得意とする、理論的・構造的なアプローチと、感覚的・現場的なアプローチでうまくバランスが取れている。
 
この本やi.schoolでの活動で学んだことはいくつもあるが、特に大きかったのは「アイデアの頑健性(ロバストネス)」みたいなことだ。
 
イデアが頑健であることが、本質的な変化を起こすためには重要らしい。
 
よくブレストやアイデア出しの本を見ると、「確かに面白いアイデアだけど、だから何?」みたいなアイデアが羅列されている。いわば、華奢なアイデアだ。
 
もちろん、そういうアイデアを出すことが頑健なアイデアを出すうえで必要なことは否定しない。はじめから頑健なアイデアを出すのはムリだ。でも、それが最終目的というわけでは決してないと思う。
 
華奢なアイデアは、見かけはステキだ。一時的には盛り上がる。でも、実現へのイメージを全く持てなかったり、現実に使われている場面を想像できなかったり、実現したからと言って何が変わるわけでもなかったりする。
 
たとえば、僕が前にいた学生団体では、「面白いことをやっている団体を1,000個くらい集めて学生博をやろう」みたいなことをやっていた。
 
でも、今にして思えば「1000団体集めてイベントやって、で何?」という感じである。そもそも実現イメージが持てないし、実現してどうなるんだ、それで自分たちは満足なのか?
 
それではダメなのだ。
 
では頑健なアイデアとは何か?
 
ちょっと飛ぶが、「華奢」と「頑健」のイメージを持ってもらうためにアサルトライフルの話をする。
 
戦後生まれの2大アサルトライフルと言えば、M16とAK47だろう。M16はアメリカの天才銃器設計者、ユージン・ストーナーが開発した銃で、現在も米軍に使われている。一方AKはソ連の設計者、ミハイル・カラシニコフが設計した銃で、今や世界中で使われている。テロや途上国での紛争、イスラム原理主義と結びつけられる、何かと評判の悪い銃だ。
 
この両者、設計は対照的だ。
 
M16は当時珍しかったアルミ合金やプラスチックを多用しており、本体も薄い。レシーバー部の厚さが2センチほどしかない。「お姫さま銃」とも呼ばれるほどだ。
 
この銃はベトナム戦争時にはじめてつかわれたのだが、高温多湿の気候や手入れ不足のせいで作動不良を頻発した。ちょっと砂ぼこりや火薬カスがたまっただけで動かなくなるのである。
 
一方AK47は、とにかく信頼性と手入れのしやすさを重視している。ボルトが数百グラムもあり、簡単に分解でき、加工技術の低い国でも問題なく作れた。多少手入れを怠ろうが、砂嵐に遭おうが、弾丸が曲がっていようが、平気なのである。
 
そしてM16が「華奢な銃」で、AK47が「頑健な銃」だ。
 
こういう頑健さが、アイデアにも必要ではないか。単純で、多少の障害には動じず、広く普及する可能性がある、そういう頑健さだ。
 
頑健なアイデア(というよりプロジェクト)の代表例が、TEDee(http://tedeejapan.com/http://d.hatena.ne.jp/elm200/20111118/1321605725)だ。学生数人が立ち上げた。
 
TEDeeが解決しようとしているのは、「TOEICで800点以上を取れるのに、機会がないせいで英語のスピーキング能力が身につかない人が大勢いる」という問題だ。
 
そして解決方法が、「みんなで集まってTEDを見て、それについてディスカッションをする」というもの。単純極まりない。
 
でも考えてみれば、英語を話すのに高い学費を払って英会話学校に行く必要は無い。「場」があればいいのだ。TEDeeはその「場」を提供している。
 
TEDeeは主張する。「TOEICで800点以上取れているのに英語を話せない人は、日本に数十万人いる。彼らがみんな英語を話せるようになれば、何かが変わるはずだ。」
 
僕はTEDeeの紹介スライドを初めてみたとき、ショックを受けた。学生でもこういうことができるのか。こんな単純なことに、なぜ誰も気づかなかったのか。必要なのは資金でも技術でもなく(TEDeeには会計係すらいない)、自分たちなりの「問題」なのだ。
 
ようは、頑健なアイデアというのはこんな特徴を持っている。
 
・問題から解決策の論理的なステップ数が少ない:「話す場がない→じゃあその場を作ろう」。わずか1ステップ。
 
・解決策が単純:「TEDを見て話すだけ」。なんて単純なんでしょう。
 
・当初の見積もりに多少誤差があろうと、その良さが消えない:「TOEICで800点以上取れているのに英語を話せない人」が実際には数十万人でなく数万人だろうと、「何かが変わりそう」という感じは消えない。
 
・「言われてみればその通りだねえ」と多くの人がうなずいてくれそう:僕はうなずいてしまった。
 
こういうAK47的頑健さをもつアイデアを生み出す方法を、i.schoolを通じて学べたのだ。
 
動機のないテクニックは空しい。でも、テクニックのない動機はただの妄想だ。動機とテクニック、どちらも必要だ。i.schoolの方法は、そのうちのテクニック面を強めるうえで大いに有意義だと思う。