basilsの日記

イノベーションについて考察するブログ。その他、アルバイト日誌、感想文、雑感など。

お役所は案外イノベーションに向いているのでは?、というくまモンの事例からのお話

 最近くまモンが人気だ。地方自治体によるゆるキャラブームの火付け役といってもいい存在だ。熊本県と関係ないグッズすらたくさん登場している。このくまモンをダシに、イノベーティブなプロジェクトの生まれやすい環境を考えてみた。すると、お役所的組織は案外イノベーションに向いているのでは、という不思議な仮説が出てきたのだ。

 

 くまモンの最大の特徴は、ライセンス料がタダなことだ。県庁への申請さえ通過すれば、だれでも自由に使える。このことが、くまモン普及の大きな要因になったことは確かだろう。
 
 というのは、去年のゼミでゆるきゃらについてゼミ論を書いた人がいる。彼女は、くまモンとひこにゃんを比べて、くまモンが普及した要因を探ろうとしていた。その結果、ひこにゃんはライセンス料を取っていたのに対して、くまモンはライセンスフリーだという違いがあり、このことがくまモンの普及を加速したのだろうと結論づけていた。
 
 この結論が正しいかどうかはさておき(笑)、そうだとすると疑問が残る。なぜ、熊本県庁という組織でくまモンのようなイノベーティブなプロジェクトができたのだろう?地方自治体の役所といえば、イノベーションからはもっとも縁遠い組織ではないか?
 
 ふつう、キャラクタービジネスではライセンス料によって収益を上げるのが王道だ。その反面、キャラクターの無断利用は厳しく禁止される。ディズニーの厳しい姿勢を見ても、「まあそんなもんだろうな」と思う。ミッキーマウスの著作権保護期間が切れそうだからと著作権法のほうを変えさせたりしても、「まあしょうがないか」という気がする。
 
 しかし、くまモンは違う。くまモンは普及を優先して、ライセンスフリーという方針を選んだ。確かに、くまモンは地方自治体のプロジェクトでビジネスではない。しかし何のためにゆるきゃらを作るのかといえば、それは地元をアピールして特産品を買ってもらったり観光客を増やしたりするためだろう。つまり究極的には、収益をあげることが目的なのだと思う。 
 

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 結果的にくまモンは大ブームになって、熊本県のイメージ向上に大いに役立った。しかしこれはあくまで結果論で、事前に分かっていたことではない。事前の当事者の立場になるならば、ライセンスフリーという「前例のない」プロジェクトが役所で実行できたというのは、すごく不自然なことではないか?たとえば、
 
・そもそもの発案者はだれなのか?
・だれが協力しているのか?
・発案者や協力者がいたとして、上役や部下たちをどう説得して協力してもらったのか?
・最初に成果がなかなか上がらない期間があったとしたら、その間上役や部下から無言の圧力を感じ続けていたはずである。それをどのように乗り越えて、協力してもらったのか?
 
などの疑問が思い浮かぶ。
 
 そこで、こんな仮説を立ててみた。実は、お役所はイノベーションを実行しやすい環境なのではないか?ふつうお役所というと
 
①官僚的体質:ルーチンワーク、以前と同じことの繰り返しを良しとする組織的体質。前例のないことを嫌う。
 
②どんぶり勘定:費用対効果を重視しない。予算を拡大することが至上目的になり、その予算で期待通りの成果を上げられたかどうかはあまり重要ではない。したがって、費用対効果が低いプロジェクトでも中止されにくい。
 
という性質が思い浮かぶ。そして、これら2つの性質は相互強化関係にある。官僚的体質で同じことばかり繰り返しているから、費用対効果を軽視するどんぶり勘定で済んでしまうのだと思う。絶えず新しいことをするなら、その費用対効果を油断なく測って成果の出ないものをすぐ中止しないといけない。しかし、ずっと同じことを繰り返してこれたのなら話は違う。「同じことを繰り返してこれた」ということ自体が、今まで通りのやり方を正当化する。したがって、それ以上の成果測定や正当化は必要なくなる。
 
 一方逆に、どんぶり勘定だったからこそ官僚的体質で済んできた、という側面もあると思う。仮に費用対効果を厳密に測っていたら、時代遅れになったりして成果が出なくなるプロジェクトがどんどん出てくるだろう。そうしたらそれらを中止しなくてはいけない。しかしどんぶり勘定なら、その必要はない。同じことの繰り返しで十分だ。
 
 このように、官僚的体質とどんぶり勘定は相互強化関係にあるのではないか。しかし、何らかの理由で官僚的体質が抜け落ちてどんぶり勘定だけが残る。すると、目先の収益性を度外視したプロジェクト、あるいは収益がどれくらい出るか未知数なプロジェクトを実行しやすくなるのではないか。もし費用対効果を厳密に測る組織なら、そんな危なっかしいプロジェクトにはゴーサインが出ないだろう。しかし、どんぶり勘定なら可能だ。くまモンが生まれたのは、こういう組織だったのではないだろうか?
 
 とまあ、勝手な仮説を考えてみた。いずれにせよ、「お役所的組織」というステレオタイプを使ってはいけないと思う。「お役所的組織」という概念をいくつかの要素に分解して、何がイノベーションを阻害していて何がイノベーションに有効なのかをちゃんと見極めることが重要だと思った。