basilsの日記

イノベーションについて考察するブログ。その他、アルバイト日誌、感想文、雑感など。

現象の相互作用関係、トートロジー的関係をどうとらえるか?

 社会科学の現象は、すべて因果関係と相互作用関係のネットワークの中にある。社会科学的分析では、その一部を切り取って、しかも因果関係の方向を一方向に限定して分析しているにすぎないのではないだろうか。
 
 たとえば、藤本・安本(2000)『成功する製品開発 産業間比較の視点』では、産業特性とそれに適した組織能力の関係が論じられている。しかし、ここでの議論はトートロジー的である。
 
 この議論の前提は、産業ごとの製品開発の特性が外生変数として存在することだ。「自動車ならアーキテクチュラル・インクリメンタルなイノベーションが多い」など。そして、異なる特性を持つ産業には、異なる組織能力が適していると考える。上記のような特徴を持つ自動車製造業には、すり合わせによる改善のための統合型組織能力が適している、ということだ。つまり、統合型組織能力をもつ自動車企業が高い開発パフォーマンス(品質・コスト・リードタイム)を達成でき、それが企業の高い収益性につながる、という主張である。
 
 しかし、産業特性は本当に外生的なのだろうか?自動車メーカーにたまたま内的統合を得意とする企業が多いから、自動車産業ではアーキテクチュラル・インクリメンタルなイノベーションが多く観察される、という逆向きの因果関係も考えられないか?もしそうだとすればこの議論はトートロジーである。というのは、「産業特性」が「適合的な組織能力」の原因であると同時に、「顕著に見られる組織能力」が「産業特性」の原因ともなっているためだ。
 
 たしかに、この種の議論はトートロジーかもしれない。しかし、別の見方もできるのではないか。すなわち、実はこの種の議論において、どちらかが原因でどちらかが結果であると一意に決めなくてはならないというのは、不完全なものの見方ではないか?つまり、「原因」「結果」という切り分け方自体、実は社会科学的現象を分析するのには不向きなものの考え方なのではないか?
 
 現象Aの原因は現象Bである。そして現象Bの原因は…と辿っていくと、結局現象Aに帰りついてしまう、とする。これを分析する1つの観点は、時系列を導入して因果関係を想定するというものである。すなわち、たしかに現象Bの原因は結局現象Aだったが、それは過去のAだ、とする見方である。過去の現象Aがそれより少し後の現象Bの原因となっており、それが現在のAの原因となっている、という観点だ。たしかにこう考えれば、整合的な説明はできる。しかし、もう一つの観点もありうるのではないか。現象Aと現象Bが互いに互いを引き起こしているという状況を、もっとありのままに捉えることはできないだろうか?