basilsの日記

イノベーションについて考察するブログ。その他、アルバイト日誌、感想文、雑感など。

廃品回収バイトが意外と楽しかった件

 先日廃品回収のバイトに行ってきたので、その時のことを書いとこうと思う。

 
 仕事開始は9時だったが、集合場所のアパートが見つからず右往左往。結局8時57分ごろに担当のKさんと合流できたが、ギリギリで着いてしまったので怒られる。
 
 まずは1件目の家。よく訳もわからないまま、台車を押してKさんについていく。Kさんだけが家に上がり、価格交渉をする。廃品を引き取るのにいくら払ってもらえるのかを、交渉するのである。その間僕は手持無沙汰で、アパートの廊下で待ち続けた。
 
 10分くらいでKさんが出てきて、次々と廃品を渡される。電気スタンド、毛布、マットレス、小型冷蔵庫、観葉植物・・・すぐに共用廊下が埋まっていく。
 
 ひととおり出してしまうと、今度はそれをトラック(いすゞのELF)まで運ぶ。そのとき言われたのが、台車を絶対建物にぶつけてはいけないということ。
 
 トラックの後ろに並んだ廃品を、Kさんは手際よく積み込んでいく。まったく隙間ができないよう、なるべく荷台の前部だけですむように上手く組み合わせるのだ。その結果、後ろから見るときれいな四角形になるように荷物が積み上げられた。マットレスを除けば、荷台の前部50センチも使っていないと思う。
 
 積み上げたものを、ロープで固定する。ロープを車体左側のフックにひっかけ、荷物の上をとおす。そしてあっという間に機械締めという結び方で強力に固定してしまった。この結び方だと体重をかけるだけで増し締めが簡単にでき、しかも移動中ほどけにくい。それなのにほどくときは、フックからロープを外して端を引っ張るだけでスルリとほどける。
 
 次の家への移動中、Kさんからいくつかの心得を教わった。まず、移動は素早く。しかし、荷物や台車を建物にぶつけてはいけない。そして、荷物を動かすときは必ず持ち上げて、引きずらない。すべて建物に傷をつけないためだ。
 
 次の家は小型冷蔵庫のみ。その次の家では、価格交渉が成立せず、何も回収せずに引き上げた。価格交渉は、回収当日に行う。実際どんなものがあるのかを見ないと、価格を決められないためだ。量や個数で画一的に判断することはできない。
 
 たとえば同じ家電でも、洗濯機や冷蔵庫は処分費用がかかるためそれ以上の価格で引きとる。しかしシュレッダーや電気スタンドは無料で処分できるので、サービスして持っていく、といった具合だ。
 
 価格交渉が成立しなかった家では、相手が「インターネットで調べた」といって妙に安い値段を提示してきた。Kさんは、その値段では到底引き取れないこと、処分費用以上の価格を払ってもらう必要があることなどを丁寧に説明した。しかし相手は折れず、結局物別れとなってしまった。
 
 トラックに戻ったKさんは、「どうしようもねえな」と毒づいていた。価格交渉が破綻したこと自体より、相手の態度や手管に腹がたっていたようである。
 
 まず相手は廃品回収の素人なのに、インターネットで聞きかじっただけの知識を振りかざしていた。そして、相手は廃品回収当日にそのアパートを引き上げて実家にもどる予定だった。どうしても今日回収してもらわないと困る、という圧力をかけて、価格交渉を有利に運ぼうとしたようにKさんには映ったのかもしれない。しかも、さっさと部屋をきれいにしてもらわないと困る立場の、大家のお婆さんまでその場にいさせていた。こういうやり口全体に腹がたったのではないかと思う。
 
 4軒目は、CDラックと大型冷蔵庫という大物。Kさんは「骨っぽいやつ」と表現していた。この家で僕は家具を2度もひきずってしまい、しかも玄関を出るとき靴を履くのにもたついて、荷物を壁にぶつけそうになった。このことでこっぴどく怒られた。お客のものや建物に傷をつけない、というのが最重要事項なのだと痛感した。
 
 その日は、東京と神奈川を広く回った。茅ヶ崎や横浜方面から、聖蹟桜が丘や立川方面をまわり、荻窪に行った後、東中野で解散した。しかし「一都三県を回る」と言っていたから、Kさん一人がカバーしているエリアはとても広いらしい。
 
 横浜方面に行く途中でサンクスに寄り、昼食を買った。Kさんはおにぎりと焼き鳥、僕はおにぎり二つ。

 そのあとは、荷物を運んで積み込んで次の家に移動、の繰り返し。段々作業に慣れてきて、動きが素早くなった。一番きつかったのは冷蔵庫だった。
 
 途中で2軒ほど、荷物を引き取らずに帰った。見積もりや後日の予約だけをした、というケースである。こういうケースでは、行って帰る時間が無駄になってしまう。見積もりや予約は非対面でできないか、と思った。
 
 また、実際に荷物運搬・積み込み作業をしている時間と同じくらい、移動に時間がかかっている。回る地域を狭めて、移動時間を短縮することはできないのだろうか。さらに、価格交渉の間は僕のような助手が暇になってしまう、という問題もあると思った。
 
 Kさんに最初に褒められたのは、消火器をもって来れるようになった時だった。Kさんが価格交渉している間に、消火器を調達してくる。これで、荷物の運び出し中にドアを固定するのだ。お客の私物でなく、近隣住民の私物でもなく、しかもその辺にあるものというと、どうしても消火器になる。
 
 ちょっと離れたところにあった消火器を素早く調達してくると、「いい動きだねえ」と褒められた。
 
 ある家では、台車への積み込みの方法を教えてもらった。僕がやると乗り切らずすぐ崩れてしまう荷物が、Kさんの手にかかるときっちり乗ってしかも崩れない。
 
 まず、細かいものはプラスチックの収納ケースなどにしまう。そして安定感のある収納ケースや電子レンジなど、直方体のものを下に積む。そうすると上面に段差が生じるので、テーブルなど平たいものでうまく平面に調節する。その上に、毛布やマットレスなどの柔らかいものをのせる。鏡など薄くて長いものは、台車の手すりと収納ケースの間などの隙間に押し込んでしまう。とにかく土台を安定させるのがコツである。
 
 こうすると、かなりの量の荷物も一度にのせられて、家とトラックの間の往復回数を減らせる。タワーマンションなど往復に時間がかかるケースでは、このメリットは特に大きい。「自分が楽に仕事するために工夫するんだ」とKさんは言っていた。
 
 最後の家に行く前に、荷物に緑色のシートをかぶせた。このころにはもう、荷台のほとんどがぎっしり埋まっている。新しい荷物を積むたびにそれまでの積み込みも崩し、最も隙間が少なくかつ安全なように積みなおすのだ。
 
 シートをかぶせるには、まず一人がキャビン(運転席と助手席のある、人の乗る空間)に乗る。特に上に上がるための取っ手のようなものはなく、荷物を固定しているロープをつかんで上がる。ロープがほどけて落ちないかと、一瞬ヒヤリとする。
 
 キャビンの真ん中にのっかると凹むので、なるべく縁に乗る。そして、シートを拡げる。シートのたたみ方にも一工夫ある。
 
 シートには、短く丸められた側と、長く丸められた側がある。この長く丸められた側を荷台後方にいるKさんに放り投げることで、一気に展開する。レッドカーペットが転がりつつ広がるのと、同じ仕組みである。
 
 荷台の中心をカバーしたら、今度はシートを横に展開する。この時点のシートは横に3つ折りにされているので、Kさんと息を合わせてまず左、ついで右、と拡げる。
 
 こうすれば、短時間で拡げられるのだ。
 
 最後に東中野で洗濯機を回収し、仕事完了のサインをもらった。19時が定時だったが、終わったのは21時だった。「サンキューな」と言われて、Kさんと別れた。トラック脇の階段を登って東中野駅の前に出ると、急に現実の世界に戻ってきたように感じた。キャバクラの客引きが、ティッシュを配っている。自販機でスプライトを買って、いつもの倍の早さで飲み干した。